あるマーケターの奮闘


以前、「カスタマーエクスペリエンスの観点から考慮すべき情報ガバナンス<ワークフローのススメ>」でも触れたが、昨今、カスタマーに向けたコンテンツの発信は、単なるモノ売りではなく、モノを通して体感する、もしくはシチュエーションを通してモノを感じる、エクスペリエンス型のコンテンツ提供が増えている。

最近、あるマーケターの方の奮闘についてお話をお聞きした。

商品をより理解していただくために、その商品を使っていくつかのストーリーを組み立てたという。商品の見映えがよく、利用用途もイメージしやすいよう、昼間の海岸をバックにその商品を撮影して、サイトに掲載したそうだ。

ストーリー展開も回を重ね、最終回のコンテンツを公開したところ、サイト訪問者からある指摘が来た。

「この背景は、以前に使っていた画像の使いまわしですね」

最近の画像加工ツールは優秀で、同じ風景画像を、一瞬にして昼、夕方、夜などの状況へ加工できてしまうそうだ。以前に使った昼間の海岸の背景画像を夕景の画像に加工して再利用したところ、見事に見破られて、上述の指摘があったそうだ。

商品の特性にもよると思うが、製品の熱心なファン、コンテンツの熱心なファンから見ると、こういった素材までもが気になるのかもしれない。コンテンツマーケティングを展開する上で、見てくださる方への配慮も今まで以上に気を遣わなければいけいない状況になったのだと思いを新たにした。

素材は無限にあるわけではないため、影響のない範囲で再利用性を上げることで、管理コストを抑えたい。しかし、このような時代背景がある以上、うまく素材管理を行うことが求められるのは必然の成り行きである。

デジタルアセット管理(DAM)と情報ガバナンスについて


昨年あたりから、デジタルアセット管理(以降DAM)に対するニーズが急速に高まっていることを実感する。

前述のようなコンテンツマーケティング「スピード」「頻度」に対応するため、アセット管理が人海戦術では立ち行かなくなった背景もあると思うが、企業から発信する情報が増えれば、それだけリスクも増すことになり、そのリスク低減と、リスク低減のためのガバナンスが必要という理由もあるようだ。

リスクという観点ではこんな話もある。

海外のフィッシングサイトで自社の製品画像が不正に流用されていることがわかり、慌てて対処したという。自社サイトから画像をダウンロードされ、悪用されたようだが、明確な流出経路は特定できなかったそうだ。

こういった不正利用の抑止や、不正利用されてしまった場合の迅速な対応のため、デジタルアセットの不正利用を特定するための仕組みを導入している企業がある。DAMに登録された画像をダウンロードする際に、自動的に透かしを埋め込み、万が一その画像が別のサイトで不正に利用されても、その画像をトラッキングして、然るべき担当者にアラートを通知してくれるサービスがある。

DAMによるアセット管理と連携して、このような不正利用のトラッキングを行い、リスクの低減を図っている。

また、その透かしには、ダウンロードしたユーザーのIDを自動で埋め込むこともできるため、誰がダウンロードした画像が流出したのか特定でき、デジタルアセットの流出に対する一定の抑止力にもなるようだ。

DAMを導入することで、社内はもとより、関係会社、代理店、コンテンツ制作会社など、社内外の関係者とデジタルアセットをセキュアにやり取りできる環境を整え、必要なアセットをすばやく見つけ、効率的に授受できるようになる。

デジタルアセット間の依存管理できていますか?


DAM
による便利な使い方について、さらに実例を紹介しよう。

デジタルが叫ばれるなかで、まだまだ紙カタログが主流である企業が多い。現場では、紙カタログのページにある画像を指差して、「この画像を資料作成に使いたいので、メールで送ってください!」といったリクエストをよくもらうそうだ。

ところが、DAMなどのアセット管理が行われていない場合、その画像を特定することが難しい。なぜなら、その画像は特定のユーザーのローカルフォルダーに保管されているか、膨大な数の画像ファイルが保管されている共有ファイルサーバーのどこかに存在するケースが多いためだ。場合によっては、社内には存在せず、外部の制作会社や、印刷業者の環境に置かれていることもある。

これでは探すことも一苦労だが、やはりガバナンスのない状態での不正利用リスクもあり、早急に管理環境の再考が必要だろう。

DAMの便利な使い方として、デジタルアセット間の依存関係を管理できる機能がある。例えば、カタログを作成する際に利用するDTP(デスクトップパブリッシングアプリケーション)と連携し、DAMで管理された画像をページに挿入した際に、その利用をDAM側に「依存関係」として自動登録することができる。また、あるキャンペーンで使われた画像、PDF、ビデオなどを明示的に指定して関係付けることもできる。

この機能により、前述のような問い合わせを受けた場合でも、まずは該当するカタログを特定し、そのカタログの依存関係をチェックすることで、目的の画像を見つけ、迅速な素材の提供が可能となる。

オンライン校正管理による業務の効率化について


カタログの管理で便利な機能をもう1つ紹介しよう。

カタログの制作は、初校からはじまり、再校、色校など、何度にもわたり校正が行われる。今でも紙による赤入れを行う企業もあれば、担当者にPDFで配布し、PDFのコメント機能で修正箇所にマークと修正内容を記載し、代表担当者がそれらの指摘を確認しながら、1つのPDFにまとめる面倒な作業を行っている。

カタログ制作においては、この校正作業に膨大な時間を割いているケースが多く、その内容をデジタルで残すことが難しいため、紙の山が積み上がっていく。

高機能なDAMでは、この校正管理の機能を提供する製品があり、従来の運用を効率化することが期待できる。ある企業では、先のようなPDFによる校正を行っていたが、DAMが提供する校正管理に切り替えた。DAMの校正管理では、カタログの表示画面上に付箋を貼るように修正内容をコメントでき、その内容を他の担当者と共有できる。

例えば、外部制作された初校のカタログを社内のマーケティング担当がチェックし、修正して欲しい箇所にコメントを記述すると、オンラインで同じ画面を共有しながら、その修正依頼に対話的に返信することができる。

前述のとおり、従来は複数の担当者へ個別にPDFが配布され、同じ箇所に同じ修正依頼のコメントが記述されることが多く、代表者は重複したコメントを1つにまとめる作業を強いられていた。DAMでは、関係者間でコメントを共有できるため、誰かが修正をコメントすれば、他の担当者は重複した無駄な作業を行わずに済み、記述する側もまとめる側も一石二鳥で無駄を省けることになる。

ご紹介した企業では、制作会社、マーケティング、製品開発、法務、印刷会社など、数十名の関係者間で校正を行っており、従来のアナログ的な管理に比べて、飛躍的に作業を効率化できたことが容易に想像いただけるだろう。しかも、この校正内容は、そのまま履歴として残せるため、あとからそのやり取りを確認することもできる。

デジタルメディアのサプライチェーン実現に向けて


最後のトピックとして、「デジタルメディアのサプライチェーン」について触れたいと思う。

昨今バズワードとなったAIだが、実はDAMとの相性がよいと言われ、今後のデジタルアセット管理の利用を加速させるかもしれない。上述のとおり、非常に便利なDAMだが、ユーザーにアセットを登録してもらうのはなかなか大変な労力を要する。

アセットを登録する際に、あわせて登録が必要なメタデータ(属性情報)の入力が大変なのだ。製品画像については、PIMや製品DBが整備されている場合、そこから情報を取得し、画像とあわせてバッチ処理でDAMへ登録することができる。

しかし、コンテンツマーケティングなどで利用したい場面ごとの「背景」、「モノ」、「人物」などの画像は、検索性を向上するため、色、季節、時間、状況、人の有無、人数、年齢、性別、関係など、様々な情報をメタデータとして登録する必要があるが、これを1つずつ手入力で行うのは気の遠くなる作業である。

その労力を軽減するために、最新のDAM製品はAIを使って属性情報を自動的に付与する機能が提供されている。この機能により、アセット登録の負荷が軽減されるだけでなく、アセットの分類も可能になる。

例えば、登録画像の属性情報として「海」、「山」、「川」、「街」などの場面について自動タグ付けされた場合、そのタグ付けをベースにコンテンツを適切に様々なシステムへ自動配布することもできる。もちろんアセットのレビューや承認といったチェックは行った上での話しだが、Web、カタログ、DM、デジタルサイネージなどのユーザーへの様々なタッチポイントのコンテンツとして、DAMが解像度やサイズを自動変換し、Webサーバ、DTP、オンディマンドプリントシステム、サイネージシステムへ画像を自動配布するような「デジタルメディアのサプライチェーン」を実現することも可能な状況になっている。

カスタマーエクスペリエンスが声高に叫ばれる今、DAMの導入とともに、「デジタルメディアのサプライチェーン」の構築を考えてみてはいかがだろうか。


本記事は、「カスタマーエクスペリエンスの観点から考慮すべき情報ガバナンス<ワークフローのススメ>」の記事の続編となります。