今、多くの企業が推進している「デジタルトランスフォーメーション (DX)」ですが、背景にあるのは、AIIoTなどの先進的な技術が数年後には当たり前の技術となるようなテクノロジーの変化です。つまり将来の市場においても企業が成長を続けるためには、業務のデジタル化が欠かせないと考えられているため、各社生き残りをかけたDX推進を行っているのです。

しかし、「人事業務」の領域では雇用契約書や入社誓約書など、紙の書類もまだまだ残っているため、製造や財務・経理部門と比べると、デジタル化が遅れている傾向にあるのではないでしょうか。

そこで本記事では、人事業務における情報管理の課題とその解決方法について解説します。

人事業務の内容と情報管理の課題とは?

人事にはどんな業務があるのでしょうか?

まずは人事企画。経営戦略や目標などに従って、人材や組織の企画、配置の計画などを行います。

次に採用。採用計画に基づいて社員を募集し、採用・不採用の判断・管理などを行います。

第三に人材育成や組織開発。新人研修に加え、キャリアパスに応じて適切な教育の機会を提供したり、従業員がモチベーション高く働ける組織づくりなども行います。

第四は制度設計とその運営です。社員が働きたくなる環境にするためには、評価・報酬や福利厚生などの制度を整備するほか、ハラスメントのない環境、ダイバーシティーへの取り組みなども求められます。

第五に給与計算や労務管理、勤怠管理などのオペレーション業務です。

このように幅広い業務を担当するため、扱う書類の種類が多いのが人事の特徴です。しかも扱う情報のほとんどが、ヒトにかかわる機密情報です。

電子化されているモノも多いですが、雇用契約書などは本人の自著が必要になるため、紙の書類が基本となります。最近は大手企業を中心に、採用ホームページからデジタルでの応募が一般的になっていますが、中堅、中小企業ではまだまだ手書きの履歴書送付による応募も珍しくないでしょう。もちろん、扱う書類には法律で保管期限が定められているため、厳重な保管・管理が求められます

課題はこれだけではありません。給与管理や勤怠管理システム、社員の個人情報(住所や家族構成など)や所属や等級・グレード、組織情報などの人事管理システム、さらには目標管理やスキル・コンピテンシー、人事考課の情報を管理するタレントマネジメントが連携しておらず、一元的に管理できていないので、「Aさんに関する○△の資料を」と言われても、すぐに探し出せず取り出せないことがあるのではないでしょうか。

課題解決に有効なERPECMの連携

ではこのような課題をいかにして解決すればよいのでしょうか?

一つは勤怠管理や給与計算、人事管理、タレントマネジメントが連携している仕組みを導入することです。例えばERPのデファクトスタンダードと言われるSAPでは、人材プロファイル、目標・評価管理、採用、報酬、学習・後任者計画、要員計画、給与計算というように、人事業務全般をカバーするソリューション (SuccessFactors) を提供しています。

しかし、このソリューションの導入だけでは、先の課題は解決できません。先述したように人事では多岐にわたる「文書」を扱っているからです。

例えば雇用契約書。これは手書きの文書としてやりとりされるので、ERPの中で管理されません。そのまま紙の文書としてファイリングされるか、PDF文書として専用フォルダーに保存されることになります。

また雇用契約書など、企業が従業員を雇用する際に作成する文書に関しては、法律によって保存義務が定められています。これを適切に管理することも重要になります。

このように文書をセキュアかつ効率的に、また法令に則って管理するための仕組みとして活用できるのがエンタープライズコンテンツ管理 (ECM) です。

ECMは情報の取得からアーカイブ、廃棄管理に至るまでの情報フローを管理するソリューション。ECMERPを効率的にシステム連携させることで、人事が抱える情報管理における課題を解決できるのです。

ERPとECM活用による人事業務のメリットとは?

ではどんなメリットがあるのでしょうか?

第一に人事が扱うあらゆる文書をセキュアかつ改ざんできないように保管できることです。しかもERPのデータと紐付けることができるので、容易に従業員に関する情報にアクセスできるようになります。

第二に紙やeメール、採用サイトなどさまざまなチャネルから送信されてくる人事に関する情報を電子化、およびワークフロー化してERPに自動で取り込むことができるようになることです。業務処理の最適化、簡素化が図れるでしょう。

第三は法令に則った文書の管理が適切に行えるようになることです。また必要な書類の状況の確認も容易にできるようになります。例えば新規に従業員を雇用する際、健康診断書や給与所得者の扶養控除等 (異動) 申告書など、さまざまな文書の提出が必要になります。これらの書類のうち、未提出なものがあれば、すぐ把握できるようになります。

第四は文書内容を含めた全文検索機能により、検索性が向上することです。特に扱う文書の多い人事部門では、全文検索機能は強力なツールになるはずです。人事業務の大幅な効率化が期待できます。

まとめ

人事業務のDXには、文書管理をデジタル化し、効率化を図ることが欠かせません。

そこでお勧めの方法がERPとECMのシステム連携です。連携することで、ERPの勤怠管理や給与計算、人事管理、タレントマネジメントの情報に、ECMで取得した人事と従業員の間で交わされる様々な文書を紐付けて統合的、かつセキュアに管理できるようになります。

ヒト、モノ、カネの経営の三要素の中でも、最も重要な要素がヒトです。ヒトに関する情報を扱う人事業務のDXこそ、これからの企業の成長に大きく貢献すると期待されています