データ改ざん、情報漏えいなど、行政文書偽造に関わるニュースが後を絶ちません。これらの不正を防ぎ、行政文書を公正に運用していくにはどうすべきなのでしょうか。

本記事では、今回の政府の全面電子化決定の背景と内容、メリットなどについて解説します。

また、行政文書の全面電子化に見る、今後のコンテンツ管理のあるべき姿、ITソリューションの活用の可能性について検討していきます。

そもそも公文書とは?電子化導入でどう変わる?


「公文書(行政文書)」とは、国や地方公共団体の機関または公務員が職務上作成した文書のことで、意思決定する過程や結果を記録したものです。のちの検証を可能にすることで、行政が適正に運営されるようにすることが狙いです。

内閣府のホームーページには「公文書等(国の行政文書等)は国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源です。このような公文書等を適切に管理し、その内容を後世に伝えることは国の重要な責務です」とあります。

しかし、財務省による決裁文書改ざんや防衛省の日報隠蔽問題など、行政文書に関する不祥事を毎日のように耳にします。このように、役所の都合で文書の内容に手心が加えられたり、ましてや破棄されるようなことがあれば、その文書はおろか行政自体への信頼が失われかねません。

法定刑においても、有印公文書偽造罪の法定刑の方が私文書偽造の場合よりも重い刑罰を科されます。これは、公文書の持つ公共的な信頼性が高いためです。そこまで重大な意味を持つ公文書について、新国立公文書館が開館予定の2026年度をメドに、電子管理のシステムを本格的に導入する方針が示されました。

行政文書の電子的管理の枠組みは、各行政機関の業務プロセスと密接不可分であり、行政文書や業務の特性に配慮し、各行政機関における利便性・効率性が確保される必要があります。他方、機密保持・改ざん防止や、移管・廃棄の確実な実施も確保されなければなりません。

こうした作業を確実・効率的に行うためにはシステムの構築が適当と判断されたのです。紙を正本・原本が中心とした現在から電子化への移行により、文書資料の機密確保、改ざん防止、また体系的・効率的な管理運営に寄与する狙いです。

公文書電子化の内容とそのメリット

 

「今後作成する行政文書は電子的に管理することを基本とし、機密の確保、改ざん防止等に十分配慮しつつ、行政文書の作成から保存、廃棄・国立公文書館等への移管までを一貫して電子的に行うための仕組みの在り方を策定する」との方針が、政府の公文書管理委員会から発表されました。

9割以上の資料が紙ベースで作成・保管されているという行政の現状から、ドラスティックな転換を迎えることになります。

 

電子化における主なメリットを以下に3点挙げてみましょう。

 

1.業務の効率化

まず、サーバーなどで一括管理するため、大量の紙の資料を整理整頓する手間を省けることが挙げられます。
情報公開請求の際も文書の探索と特定が容易になり、時間が短縮できます。紛失やむやみな複製の防止も期待できるでしょう。システムの構築次第で関係部署間での共有も可能です。

データを分散して保管することにより、災害時など万が一の事態でも喪失を避けられます。テレワーク利活用と相俟って、シームレスなワークスタイルにも寄与することでしょう。
また、一定期間経過後も利用可能なように、安定して見読可能な特定機器を導入し、ソフトウェアへの依存度の低いフォーマットに媒体変換し保存します。

 

2.改ざん、不正の防止

文書保存用の共有フォルダは読み取り専用としてアクセス制限が設けられ、安易なデータ改ざん・削除を防ぎます。
また、閲覧、修正などの更新を加えた職員とその状況を追跡できるよう履歴を残すシステムが採用される予定です。

特に厳格な管理が求められる重要文書、機密文書に対しては、前述のアクセス制限に加え、複製の供与状況等をシステムで詳細を把握し、情報漏えいも防止します。
公用の電子メールに関しては、一部省庁で今まで導入されていた、一定期間が過ぎるとサーバーからメールを自動削除する機能を廃止する方針が示されました。

これらは全てコンプライアンス強化の取り組みといえます。

 

3.省エネルギー、省スペース化

国の機関で作成された膨大な公文書の中から、歴史資料として重要なものが選別され国立公文書館に保存されていることをご存知でしょうか。
この国立公文書館も手狭になりつつあり、2026年度に新たな公文書館が開館予定です。

各省庁が作成する文書は現在、9割以上が紙ベースで運用されており、印刷代、紙代、また資料の運搬、保管、廃棄にそれぞれ費用がかかります。
また、それらの作業に関わる人件費も加えて必要となります。電子化により、これらのコストカットに貢献するのです。

企業におけるITソリューションの取り組み


公文書電子化は、行政文書だけにメリットがあるわけではありません。文書の電子化における各種業務の効率化、省エネ&省スペース、不正の防止などさまざまなメリットも、基本的にはそのまま民間企業のメリットとして当てはまるのです。

サービス業界や金融業界などは、電子化が比較的進んでいる業界です。例えば、金融業界では書類電子化により、省スペース、外部監査や税務調査など各種問い合わせへの迅速な対応はもちろん、最新のセキュリティ技術を駆使した情報漏えい対策も可能となるのです。

さらに、かつては断片的であった顧客情報を、電子化により社内データおよび社外での現実世界での顧客データを継続的に収集し統合し、分析が可能となりました。
顧客の有効なセグメンテーション、ターゲティングが可能となったことで、これまでにない強力で的確なアプローチ、対象を明確にした適切なサービスが提案できるようになったのです。


このように、民間企業では先進的な取り組みをいくつも生み出しています。電子化による働き方の改革は、もはや止まることはない潮流です。
これを機に組織のあり方、文化や行動様式までも見直すことができれば、電子化の恩恵は効率化や省力化にはとどまらないものとなるでしょう。

電子化、さらなる活用も視野に


電子的に管理し、体系的な管理を進めることで、文書の所在把握、履歴管理や探索の容易化、文書管理に関する業務の効率的運営の支援に寄与するという公文書管理の全面電子化。
これを始めとして、更なるペーパーレス、キャッシュレスなどさまざまな分野への電子化の活用が進むことが予想されます。

今後はより一層、情報を管理統制し、適切に活かしていくITソリューションの活用がキーとなるでしょう。