企業における情報管理が問題視される昨今、業務の効率化やコンプライアンスの観点から、日本でも文書の保管に関する法令が整備されてきました。

なかでも、「e-文書法」「電子帳簿保存法」は、紙文書の電子データ化を推進するという大きな役割を果たしています。

本記事では、2つの法令の概要やその違い、企業における情報ガバナンスやコンプライアンス対応の重要性を解説します。

e-文書法」と「電子帳簿保存法」とはどのような法令か?

 

「e-文書法」2004年に制定され、2005年に施行されました。それまで法令により紙での保存が義務付けられていた文書に関して、デジタル化してデータで保存することを容認するものです。具体的には、証券取引法や商法、法人税法などによって原本の保存が必要とされていた文書が対象となります。

e-文書法」が制定された背景には、企業活動の効率化やコストの削減を推進する狙いがあります。多くの文書をデジタル化して扱うことで、検索や保管といった日常的な業務に費やす労力を減らすことを可能にしました。

2003年に施行された「行政手続オンライン化法」によって官業務の電子化を推進したのに対して、「e-文書法」は民間事業における文書の電子化の推進に大きな影響を与える法律となったのです。

しかし、企業が全ての文書を自由にスキャンしてデジタル化して良いわけではありません。経済産業省は以下の4つを要件として定めています。

  • パソコンのディスプレイなどではっきりと読める「見読性」があること
  • データ改ざんや抹消があった場合に確認できる「完全性」があること
  • アクセスを制限する「機密性」があること
  • データを即座に探せる「検索性」があること


これらすべてを満たす場合に限り、紙の文書と同等のものとして扱うことが許されます。ただし、文書の種類や関連する法令によっては、異なる要件が設けられている場合もあるので注意が必要です。


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文書法と混同されやすい法律として「電子帳簿保存法」があります。国税庁が管轄する所得税や法人税といった税に関する法令関連の書類や帳簿に関して、デジタル化したデータで保存することを容認する法律です。

電子帳簿保存法で定められている要件は以下の2つです。 

  • 訂正・削除履歴、帳簿の関連性を残すことや関連書類の備え付けが必要となる「真実性の確保」
  • 読みやすい状態になっており、すみやかに出力や検索が可能となる「可視性の確保」


電子帳簿保存法は、1998年に制定され2005年に改正されました。制定された当時は「コンピューターで作成された文書」のみが対象であり、紙文書のスキャンによる「スキャナ保存」が考慮されていませんでしたが、e-文書法の施行に併せて改正後に認められるようになりました。

しかし、スキャナ保存に関しては、該当する書類の金額制限や電子署名作成の義務付け、認定タイムスタンプの義務付けなど厳しいチェックポイントがあり、改正当初はなかなか利用が伸びないという状況でした。そこで、2015年には電子署名と金額制限の廃止、翌2016年にはスマートフォンやデジタルカメラなどで撮影した領収書も電子保存可能とするなどの規制緩和が行われました。

電子帳簿保存法の目的として、電子化を推進して民間事業者の負担を軽減することだけでなく、課税を適正公平に行うことも挙げられます。

以上のように、e-文書法と電子帳簿保存法の要件には類似点がある一方、対象となる文書には大きな違いがあるので注意が必要です。e-文書法は、保存することが義務付けられている文書であれば、様々な文書に適用される可能性がありますが、電子帳簿保存法の対象になるのは国税関係の文書のみです。

また、「事前の承認が必要かどうか」も両者の大きな相違点の1つです。電子帳簿保存法にもとづいてデジタル化する場合は、期限内に税務署に届け出をするなどして、承認を受けなければなりません

コンプライアンスの観点から - 情報ガバナンスでリスクを軽減


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文書法や電子帳簿保存法により企業は効率化やコスト削減といった恩恵を受けられます。しかし、文書のデジタル化には負の面があることを知っておくことが大切です。

昨今の大手企業の不祥事には、「データ改ざん」「情報漏えい」のように文書に関する不正が多く見受けられます。売り上げを伸ばすために、発売予定の商品のスペックを偽のデータに書き換えたりする例や、クライアントの個人情報を流出させるようなトラブルが頻繁に発生しています。このような不祥事は昔からあるものですが、文書のデジタル化が進むとともに更に起こるリスクが高まってきました

紙の文書と異なり、デジタル文書は簡単に書き換えが可能です。収益の過少申告のような企業ぐるみの不正にとどまらず、ノルマを達成したように見せるための個人レベルの不正もあり得るでしょう。また、セキュリティの問題として情報流出に関してもインターネットにつながっている状況だと容易に起こり得るのです。それは、企業レベルでのシステムの欠陥から個人での不注意まで、大小さまざまなことが原因で発生する可能性があるのです。

このような文書のデジタル化にともなうリスクの対応策として、全社的な「情報ガバナンス」「コンプライアンス」の推進を図ることは非常に有効な手段の1つと言えるでしょう。

「情報ガバナンス」とは、情報の扱いに関するポリシーを定めて、すべてのデータを適切に制御することを指し、「コンプライアンス」は、もともとは企業が法令などのルールをしっかりと守ることを意味します。

つまり、コンプライアンスを遵守する企業になるためには、情報ガバナンスの定着が必要であるということです。コンプライアンスの意味は少しずつ変化し、現代では倫理を大切にすることなども含めた広い概念になりました。「コンプライアンスをどれだけ重視しているのか」という度合いは、世間が企業を評価する際の一つの指標となっています。

情報ガバナンスやコンプライアンスの推進にともなう文書(ファイル)管理コンテンツ管理ソリューションの導入は、「e-文書法」や「電子帳簿保存法」への準拠も含まれますが、それらの対象でない文書の扱いに関しても明確なポリシーやルールを設けることで、不祥事のリスクを下げるだけでなく、企業価値をより高めることにもつながるでしょう。

正しい知識と取り組みによって不祥事のリスクを下げよう


いかがでしょうか。文書のデジタル化の法律に関しては、枠組みの広い「e-文書法」だけしか知らない人もいるでしょう。会計業務で想定外の失敗を招かないように、「電子帳簿保存法」についても正しく把握しておかなければなりません。

また、文書のデジタル化にともなうリスクとして、データ改ざんや情報漏えいのような不祥事を未然に防ぐためにも、情報ガバナンスやコンプライアンスを意識した取り組みを全社的に日頃から行っておきましょう。