組織が情報ガバナンスを採用する理由の1つが訴訟対策だということを考えれば、法律事務所が情報ガバナンスを積極的に取り入れていることも不思議ではありません。また現在では、クライアント (依頼者) の情報を適切に管理することが重視されるようにもなっています。

さらに、近年の傾向で、法律事務所が年中無休で24時間対応を行うようになり、訴訟にかかわるすべての当事者間で共同作業を行うニーズが高まっています。従来の業務要件に加え、こうした要件に対応することが、ハイレベルなサービスをコスト効率よくクライアントに提供するために必要です。

法律事務所の情報ガバナンスで大きな流れとなっている傾向とは?

複雑化する規制要件への対応

法律事務所は、ほかの組織以上に法規制遵守が求められます。事務所内の情報とクライアント情報のどちらも、法令に沿って取り扱う必要があります。

たとえば、米国の法律事務所は、「HIPAA法 (Health Information Portability and Accountability Act: 医療情報の相互運用性と説明責任に関する法律) 」で保護されている医療情報を保存および利用する組織と同様に、同法のセキュリティと情報保護に関する要件を満たす必要があります。

このように法律事務所は、法曹界における法的規制と、クライアントの業界における法的規制の両方を遵守する必要があるのです。また最低限の条件として、事務所内外の情報を管理するために、一元管理されたポリシーを策定および運用している必要があります。

ビッグデータとeディスカバリー

大規模な法律事務所は、膨大な情報が保管された倉庫と考えることができます。

法律事務所は、情報が持つ価値を効率よく分析し、収集したデータに関連するリスクを軽減できなければなりません。ビッグデータを活用することで、提供するサービスの質と収益性を向上させ、eDiscovery (電子証拠開示制度) 対応などにかかるコスト、時間、リスクを削減することができます

法律事務所は今日、構造化データも非構造化データもすべて完全な管理下に置き、情報ガバナンスの手順を定め、eDiscoveryのために電子メールや電子文書に閉じ込められている情報を管理および保全する目的で、「プリディクディブコーディング (予測符号化)」と呼ばれるような、情報の分類とコード化を自動的に行うシステムの導入を検討しています。

情報の共有とコラボレーション

英国では、ジャクソンレポートという報告書で、早期情報開示を効率的に行い、コストを削減するための方策が論じられています。

ここでは、すべての当事者に、効果的に意思疎通を図り、共同作業を進める責任があります。これは法律事務所とクライアントの間だけの問題ではなく、情報開示プロセスにおいて強い権限を持つ裁判官をも含むプロセスです。また、コラボレーションと情報の共有は、外部弁護士との共同作業において重要な役割を果たしています。

時代と共に進化するクライアントの要望を満たし、外部弁護士を任命して契約上の義務を果たす能力は、法律事務所が訴訟に勝利し、業界で生き残っていけるかどうかにもかかわってきます。

現在では情報が、弁護士、クライアント、法律事務所間で行き来する「弁護士と物の移動 (Lawyer and Matter Mobility)」がますます日常的になり、情報ガバナンスに影響を与えるようになっています。

このため法律事務所では、所有するあらゆる情報を管理し、一つひとつの情報、特にファイアウォールを通過して事務所の内と外を行き来する情報の優先度とアクセス権を設定し、つぶさに監視する必要があります。

法律事務所の年中無休、24時間対応体制に向けて

いつでも情報にアクセスできる状態にしておきたいというクライアントの要望に対応すべく、年中無休24時間体制をとり、弁護士が事務所、外出先、自宅のどこにいてもリソースや情報にアクセスできるようにする法律事務所がますます多くなっています。

その結果、ますます多くの機密情報が事務所外に出るようになり、特に直接的な管理がほとんど及ばないデバイスに機密情報が保存されているケースもあります。情報ガバナンスでは、遠隔地にある情報自体と、情報が収められているデバイスの両方を管理する必要があります。

また、情報セキュリティとデータプライバシーの保護は最重要課題ですが、弁護士が求める柔軟性と、クライアントが求めるアクセス権とのバランスを考えることも必要です。圧倒的多数の法律事務所が、不十分な情報管理に起因するリスクとコストを軽減する必要性を痛切に感じています。

今日、ますます多くの法律事務所が、情報ガバナンスプログラムを導入することで、事務所内でも、クライアントや他の法律事務所との協力関係においても、働き方が改善されていることを実感するようになっています。

情報ガバナンスがもたらすメリットは?

合理化

クライアント、外部弁護士、裁判官と効果的に情報共有を行うことで、コラボレーションを支援する

有効化

ビッグデータの手法を採用し、eDiscovery (電子証拠開示) に関連するコストと時間を削減する

効率化

年中無休24時間体制で対応する現代の法律事務所に、情報管理の基盤を提供する