製薬業界において、医薬品の安全性・品質の保証は最重要事項です。

そのための全社的な取り組みで必要となるのが「データインテグリティ」であり、その確立には「ALCOA原則」「CCEA」と呼ばれる基準に則っていなければなりません。

本記事では、データインテグリティとそれに関わる規則、業務上の課題や対応策について解説します。

データインテグリティの必要性とデータライフサイクルとは?


「データインテグリティ」とは、完全で一貫性があり、正確であるデータであること。ソースであるデータが全て揃っていて、かつデータのライフサイクルを通じても欠損がなく、整合性のとれた、完全で一貫性のあるデータを保証することを指します。


「データのライフサイクル」とは、簡単に言うと、データが生まれてから削除(廃棄)されるまでの過程を指します。実務上では、最初に記録される「オリジナルデータ」、そこから保存される「1次データ」、解析など加工し利用される「2次以降のデータ」、当局への「申請データ」などの一連の流れをいいます。

このライフサイクルの中で最も重要と言われるのが、基礎である「オリジナルデータ」の管理です。

基礎であるオリジナルデータを改ざん・削除してしまうことで、その後の一貫性はどんどんずれていってしまい、最終的な申請データから遡ってデータの完全性を証明することもできなくなるからです。


製薬業界において、医薬品の安全性は最も遵守されるべきもので、当然できているはずだと思われていましたが、2013年~2015年にかけて海外規制当局のGMP査察において、データインテグリティ不適合が多数、指摘されました。

医薬品の製造や品質保持試験のデータ改ざん事件が頻発し、その指摘が多発したことで、利用する患者への安全性や品質を保証するためにも、データの管理について監視の目を厳しくする必要性が生まれ、海外の規制当局である、米国FDAや欧州EMAはデータインテグリティについて、より細かな原則として、「ALCOA原則」および「CCEA」を提示したのです。


製薬業界では、データインテグリティを確立するために、この原則に沿ってデータの管理・作成をすることが求められます。

ALCOA原則とCCEAとは? 業務上の課題は?


「ALCOA
原則」とは、米国FDAが提示しているデータインテグリティにおける基本原則のことです。

「Attributable(帰属性)」「Legible(判読性)」「Contemporaneous(同時性)」「Original(オリジナル性)」「Accurate(正確性)」の5項目からなり、頭文字をとってALCOA原則と呼ばれています。


データは、「誰が記録したかが明確であり」、「全ての記録が読み取ることが可能で」、「データが生成・観察された時点で記録し」、「最初に記録した原本の内容と意味を維持したものであり」、「偽りがなく信用できるもの」であることが原則です。



さらに欧州EMAでは、「CCEA」として、「Complete(完璧性)」「Consistent(一貫性)」「Enduring(永続性)」「Available(可用性)」を追加したALCOAプラスをデータインテグリティの原則として提示しています。

データが「完全」であり、「一貫して矛盾がなく」、「永続的に」「必要に応じていつでも利用可能」なことが原則です。

これらの条件が満たされない要因として、悪意あるデータの改ざんだけでなく、意図せずデータが破棄されてしまっていたり、変更されてしまうケースもあります。データが破棄・変更されてしまうことで、その製品に対して誠実で真摯に取り組んだ証拠を示せず、ねつ造や改ざんがないことを証明することができなくなります。そうなってしまうと、医薬品の出荷が認められず、世界中の多くの患者が困ることになるでしょう。

意図しないデータ改ざんは、従業員へのコンプライアンスやデータ管理に関する教育不足が要因となる場合が多く、その課題解決に必要となるのが、データのライフサイクルを徹底的に管理するITシステム基盤の整備ではないでしょうか。

データのライフサイクルを適切に管理するために


データのライフサイクルを管理するには、社内全体でその重要性と管理方法、基準を理解し実行する必要があります。

実データそのものだけでなく、データに関する情報を横断的に管理し、適切なアクセス制限を設定することで、誰もが安易にデータを変更できないようにすることが重要です。

また、データを定期的に管理・監視し、自主的にリスクマネジメントをすることで、データの品質を保持することができます。特にオリジナルデータの取り扱いについては、申請されたデータから以前の段階へ遡る工程が完全に証明される必要があるため、生成された状態そのままで保存しなければなりません。

完全な証明ができれば、それはデータの改ざんがされていないということになり、査察のチェックポイントにもなります。オリジナルデータは「最初に生成されたフォーマットが変更されていないオリジナル記録・文書」が保存されていることが前提です。

機器から生成されたものが紙だけで出力されたのであれば、その紙データがオリジナルデータとなります。このオリジナルデータを元に、複雑に解析・加工され、1次データ、2次データとつながっていきますが、解析のために他の機器などに持ち出してしまうと、ALCOA原則である「誰のデータかを明確にする」、「オリジナルのデータである」点が崩されてしまうのです。

データの管理は、どのデータが最新であるかも非常に重要であり、オリジナルデータを含む基本データをすぐに取り出せる状態になければ、業務の非効率化にもつながります。オリジナルデータだけでなく各データの保管場所も一貫して管理しておくことで、データインテグリティの保持と業務効率化の両方につなげることができるのです。

データの加工や活用は多岐にわたり、段階を追うごとに複雑化してしまうでしょう。そうした複雑化してしまったフローの対策としても、ITシステム基盤の整備は、重要なものになるでしょう。

データインテグリティにはライフサイクルの管理が不可欠


製薬業界において、データインテグリティは重要な要素となります。医薬品開発の安全性・信頼性へのエビデンスがなければ医薬品を出荷することができません。データインテグリティを遵守し、データのライフサイクルを適した手順で管理することで、医薬品の安全性は守られているのです。

そのためにも、関連部署だけでなく、社内全体でデータのライフサイクルを管理するためのITシステム基盤の整備や従業員へのコンプライアンス教育を随時見直していきましょう。